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臨床外記 (1) 1万2000キロメートル

 漢方医学考え方の一つに陰陽原理がます。陽気と陰気、陽極と陰極、山陽と山陰などわれわれの身近に陰陽は用いられています。上にあるもの、軽いもの、明るいもの、強いものなどが陽。反対に、下にあるもの、重いもの、暗いもの、弱いものなどが陰です。
 陰に過ぎている場合は陽の薬を、陽に過ぎている場合は陰の薬を、とバランスを回復することが漢方治療の基本原理です。陰陽を病気の部位でみると背中は陽で胸腹は陰、上が陽で下は陰、体表は陽で内部臓器は陰となります。病気の性質についてみると顔色が赤く興奮的な人は陽、顔色が青白く手足が冷えるような人は陰となります。クスリの分類では温性薬と寒性薬、補性薬と瀉性薬なども陰陽分類と考えられます。
 疾病経過の時期的分類もあります。あくまで図式的なものですが、病期は三陽病と三陰病に分類され、疾病は太陽病→少陽病→陽明病とすすみ陰病期にはいり、陰病期は太陰病→少陰病→厥陰病と進むと説明されます。補性薬は補剤ともいわれ、陰病期や虚証の人に用いると体力を充実させ、病気に対する抵抗力を高めます。補中益気湯、十全大補湯、加味帰脾湯などは代表的な補剤で、私はよく処方しています。
 
 さて、陽は陰を導き陰は陽を養うと漢方ではいわれますが、陰が陽を養う、という興味深い話に最近めぐりあいました。五木寛之さんの「人間の覚悟」という本で、アイオワ大学の教授の実験が紹介されていました。以下です。

臨床外記 (1) 1万2000キロメートル


 三十センチ四方、深さ五十六センチの木箱を作り、そこに砂だけ入れて一本のライ麦の苗を植える。水だけで育てて三ヶ月後に箱から取りだして砂をすべて振るい落とし、広がっている根の長さを計測してみたところ、毛根の先にある顕微鏡でしか見えないようなものまで全部あわせると、何と1万1200キロメートルもあったという。
 一本のライ麦が砂の中から水だけを吸い上げ、六十日間生きつづけるために、シベリア鉄道をはるかにこえるくらいの長さの根を張りめぐらせ、その命を支えていた。
 そう考えたら、その麦は色が冴えないとか、穂が付いていないとか文句言う気にはなれません。そこには生きつづけるというだけで、ものすごい努力があった。
 一本の麦でさえ、それくらいの根を見えないところまで張りめぐらせて必死で生きていることを思えば、私たち人間は・・・
 一日生きているだけでものすごいことをしている。人は生きているだけで偉大なことなのだと思います。その人が貧しく無名で、生き甲斐がないように思えても、一日、一ヶ月、一年、もし三十年生きたとすれば、それだけてものすごい重みがあるのです。

 五木寛之さん、いいですね。敷衍して申せば、一人の人間がいまこの地上に存在するということの背景に複雑巨大な人のつながりとエネルギーがあり、生体は無意識に統一的・合目的的に体内環境をある一定範囲内に保とうとしています。そのホメオスターシス機能を妨げないように治療するのが基本のキの字です。ならば、強く切れ味の鋭いクスリで強引に「治そう」とするよりもむしろ、生活を整え、休息し、養生し、自然治癒力の回復を待ち、投薬は必要最小限にするのが、慢性期の病態に対しては優れた治療と言えそうです。
 でも、分かっているに休めない人が少なくないのです。外来診療で次のような光景は日常的にみられます。例えば、無理して働きつづけ鬱病に罹患し、疲労困憊しているサラリーマン。病状からして当面三ヶ月の病気休暇を取ることが必要だと判断します。勧めます。しかし彼は休めないとか休みたくないとか言う。あれこれ忖度するのでしょう。仕事に穴を開けられない、クビになるかもしれない、競争に負けてしまう、カネがない、などなどの理由が挙げられます。こうなったら医師は、彼の生活の基盤を崩してまで休ませることはできません。みすみす回復が遅れていくのを知りながら、病をかかえ力を尽くして働いている彼を支えていくしかない。社会の不条理のなかでわれわれは因果な仕事をしているのです。
 空想します。次のような診断書を書ける日を。例えば
診断 鬱病
 上記のものは過重労働に起因する疲憊状態にあるので国立○○温泉保養施設で当面三ヶ月間の療養を必要とすることを認める。

付記 もちろんこの保養施設は無料です。フランスでは当たり前の診断書のようです
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